罪の名前(★★★★☆)

罪の名前

罪の名前

■あらすじ
日向には秘密がある。それは、口の中で生き物の蠢きを感じるのをが楽しくてやめられないこと。誰からも気味悪がられるその秘密を唯一守ってくれるのが、幼馴染の隼人だった。思いがけず、隼人が同級生に嫌がらせをされていることを知った日向は、ついにある行動に出るが(虫食い)。人間の本性を炙り出す傑作短編集。

■感想
短編集。どのお話もハッピーエンドとは程遠い不吉な余韻を残すラストで締めくくられている。嘘をつく患者に踊らされる医者、弟に恋をしてしまった不器用な兄の最期、呼吸をするように嘘で自分を塗り固める女友達。語り手が畏怖を感じる対象はどれも一般的な常識から逸脱した者ばかり。でも弟を愛してもがき苦しむ兄がいたたまれなくていっそのこと弟に手紙の真相をぶちまけても良かったのに、とさえ思った。
特に印象に残ったのは「虫食い」。思わず口の中の感触が気色悪くなるような描写はさすが。最後の隼人の「どうしてなんだろうな」という言葉が胸に響いた。その癖さえなければ隼人と日向はきっと一歩進んだ関係になってもおかしくないのに。たまにはこういう心が引き摺られるようなお話もいいな。