真実の10メートル手前(★★★★☆)

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの大刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める。大刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、大刀洗万智の活動記録。「綱渡りの成功例」など粒揃いの六編、第155回直木賞候補作。

フリージャーナリスト・大刀洗が遭遇する事件の真実をあばいていく。大刀洗が時折呟く一言がまるで鋭い切れ味を持ったナイフのようで、事件にメスをいれているかのようだ。彼女の佇まい自体も淡々としていて、記者として冷静に事件を見つめる姿が印象的。
「名を刻む死」は大刀洗の最後の言葉が頭から離れない、京介の心を救う為の一言だった訳だけどその言葉を的確に選ぶ大刀洗がすごい。「恋累心中」は若さゆえの過ちといってしまえばそれまでだけど、手を差しのべなければいけない立場の大人があんな奴らではやり切れない。自分も苦しみ、更に大事な人を殺さなければと思ってしまった彼の苦痛は計り知れない。全体的にほろ苦い結末でした。